1.
動機は、銀行等の債権者に少しでも良く評価されたい、経営事項審査の評点を少しでも上げてランクアップを図りたい、この二つである。簡単にできることから軽い気持ちでやってしまいがちであるが、一度やると止められなくなる麻薬性がある。
2.その毒が会社自体をどのように蝕んでいくものか、当初は自覚しにくい。やってはいけないことをやってしまったという罪悪感があればまだ救われる。
3.通常、経営者は粉飾を施した決算書だけしか手許に残さないので、累積的にどれほどの粉飾を行ってきたのかが分からないことが多い。例えば、過年度に1億円の粉飾(ex.未成工事支出金の水増し)を行い、当年度に1千万の追加粉飾を行うかどうかを検討中の場合、当年度の決算素案として上げられてくる書類は過年度の1億円の粉飾を折込済みのものであるため、当年度で粉飾が累積で1億1千万になることに気付きにくい。
4.したがって、経営者が会社の厳しい現状を把握していないことが多く、現状に不相応な高級車に乗り続け、関係者の顰蹙を買うことなどはありがちである。
5.厳しさに気付いている経営者は、従業員に危機感を植え付けるため会社の現状を説明しようとするが、従業員には粉飾を施した決算書しか見せることができず、いくら説明しても真実が伝わらない。したがって危機感を植え付けることができない。
6.粉飾により帳簿が汚れてしまうことで、経理担当者の業務上の正確性・網羅性等に対するこだわりが失われてしまい、ひいては経理システム全般が杜撰になることが多い。
7.危機感のない従業員、杜撰な経理システムは、経営者にとって有益な経営情報を提供できなくなり、「若干厳しい」程度の認識しかない経営者に、今月末の手形決済の目処が立たない等の報告を突然上げることも多い。
8.金融機関は、コンピュータシステムを駆使して融資先の決算書が粉飾されていないかの分析を行っており、それによりほとんどの粉飾は見破られている。
その分析のロジックは、経常収支比率又はキャッシュフロー分析である。よほど巧妙な手口でない限り、損益計算書の利益は繕えても資金の動きが真実を表してしまうのである。
見て見ぬふりができた時代とは違い、金融機関自体が生き残りをかけて融資先の厳しい選別を始めている。いつ取引を断られるか予断を許さない。
以上のどの段階で会社が粉飾と決別できるか。それは経営者の決断一つにかかっている。しかも、そのタイミングが遅れれば遅れるほど決別は難しくなる。早期の決別ができなければ、結末は最も厳しいものになるであろう。
建設業の場合、もっとも民事再生法に不向きな業種といわれており、一旦破綻すれば再建は99%不可能である。
(唐津建設業協会青年部における講演原稿より抜粋)
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